新緑のまぶしい5月です。
暖かだった3月のローマから4月の奥出雲に来て、その寒さに驚きました。
例年に比べ冬の雪も多かったそうで、どこもかしこも真っ白だった奥出雲地方の方々には、萌え出るみずみずしい緑がより鮮明に感じられることでしょう。

今年の田植えは、早いところだと4月下旬から始まりました。
休みを利用して戻ってくる家族がいたり、週末のイベントに参加する子どもたちがいたり、田植えシーズンの田んぼはいつもと比べてにぎやかです。

そんな5月のある日、奥出雲町内にある水田の一角で、新嘗祭の御田植式が厳かに行われました。

新嘗祭を知っていますか?

新嘗祭(にいなめさい)という言葉を聞いたことのある方もいらっしゃると思います。
毎年11月23日に宮中で行われる祭祀のことで、天皇陛下が日本各地でその年に収穫された新穀を神々にお供えになり五穀豊穣を感謝された後、自らもお召し上がりになるという儀式です。
宮中恒例祭典の中でも、もっとも重要な祭祀に位置付けられています。

天照大御神が稲の豊作を願い執り行ったのが最初とか、飛鳥時代にそのセレモニーの原形が成立したとか、起源がはっきりとは分からないほど由緒ある祭祀だそうです。

捧げられる供物には、その年に日本各地で収穫された農作物のほか、魚介や干物、お酒などがあります。
中でも初穂の新米は、新嘗祭においてもっとも重要な存在です。

 

今年の島根代表は仁多米

新嘗祭の供物である初穂の新米のことを「献上米(けんじょうまい)」と呼びます。
各都道府県から集められるのですが、今年、島根県から献上されるのは仁多郡奥出雲町大馬木地区にある水田で収穫される仁多米になりました!

去る5月4日、その献上米を育てる「献穀田(けんこくでん)」で「御田植式(おたうえしき)」が行われました。

約14アールの献穀田は、毎年、奥出雲仁多米株式会社へお米を出荷している野原幸雄さんの水田です。
近くに張られたテントでは厳かな神事が行われ、神官たちによって献穀田が清められた後、石原恵利子副知事や糸原保町長らによってコシヒカリの苗が植えられました。

 

9月の稲刈りが待ち遠しい!

豊作への祈りを捧げ、無事に御田植式も済み、あとは9月初旬になると予想される稲刈りを待つばかり……とは行きません。
約4ヵ月の間、予断を許さない水田管理が続くのだそうです。

これは献穀田だけに限られたことではありません。
仁多米を生産する農家、すべてが同様に秋の豊作を目指し粛々と努力していくのです。

天候に左右されがちな農業は予測の付かないことも多く、仁多米生産者たちは秋の収穫まで気の抜けない日々を過ごすことになります。
日照不足だったり、逆に日照りがつづいたり、台風の影響を受けたりといった自然の脅威にさらされながら、各農家は知恵と工夫で水田のコンデイションを良好な状態に保つのです。


そんな仁多米生産者たちの努力の賜物、それが秋の実りの新米となって私たちの食卓に上ります。

(記事:地域おこし協力隊 野本由美)

▲棚田の広がる奥出雲町大馬木地区

▲御田植式の神事

▲苗を捧げ持つ野原さん夫妻

 ◀お祓いを受ける献穀田

▲献穀田に苗を植える石原副知事、糸原町長ら

 

▲緑に映える神官たちの真っ白な装束にも伝統を感じる

 

【参考】
主要祭儀一覧 - 宮内庁